【人事必見】シニア社員活用3つのパターンとメリット・デメリット
急速な高齢化により、日本企業は今までにない人員構成の変化を体験します。そんな中、各企業で様々な取り組みが始まっているシニア活用ですが、問題点も表出してきています。そこで、シニア社員の活用パターンを分類し、それぞれのメリット・デメリットを整理したうえで、今後企業がとるべきシニア社員活用の方向性を示したいと思います。
シニア社員活用パターンとメリット・デメリット
各企業ともに試行錯誤しながらも様々なパターンでシニア社員を活用しています。主なパターンとしては、①専門性活用パターン、②経験業務活用パターン、③労働力活用パターンの 3 つです。
①「専門性活用」パターンは、シニア社員の経験やスキルでほかの人では担いにくい専門的な知見を活用するパターンです。「専門性」というと、職人肌の技術者を思い浮かべる方も多いと思いますが、独自の人的ネットワークを活用した営業や特殊なチームのマネジメント職もこれに当てはまります。「他の人には代えがたい」ということがポイントとなります。当然企業側からは重宝されるため、職務と処遇の差もなく、シニア社員自身のモチベーションも高く、シニア活用の成功事例として取り上げられることも多いパターンです。一方、このような専門的な知見を有する人材は限られており、今後増え続けるシニア社員数に対し、専門性を活用できるシニア社員の絶対数が非常に少ないのが難点です。
②「経験業務活用」パターンは、今まで経験したことがある業務を中心に行い、その経験を活用するパターンです。企業としては新規採用や社員教育なしで、生産性を保つことができます。ただ、同じ業務を行っているのに、給与だけが下がるというケースも多く、その場合、職務に対して処遇が低いことがモチベーション低下を引き起こします。さらにシニア社員が従来と同じ業務を継続することは、若手社員の経験の場を奪うことにもなり、社員教育の遅れや適切な新陳代謝が進まないという問題も発生します。
③「労働力活用」パターンは、シニア社員の継続雇用により増えた労働力を社内で発生する単純な業務にあてがうパターンです。人材確保が難しくなる今後、労働力確保の手段の一つとはなりますが、保有能力と業務内容のギャップが大きく、経験業務活用パターン以上にモチベーション低下を起こす可能性が高いです。
シニア社員の業務開発を行い、経営課題を解決する
60 歳以降の継続雇用が義務化されたことにより、「社員が60 歳以降も働くから、どのような仕事をさせるか?」と、受け身の状態でシニア社員の仕事を検討する企業がほとんどでした。しかし、シニア社員が今後増えていくため、この受け身の対策では限界があるのは前項で述べてきたとおりです。
今後は「シニア社員を活用して、経営課題を解決できないか?」と能動的な視点で、シニア社員の業務開発を行うことが重要となります。2030 年以降、バブル世代がシニア層に、第二次ベビーブーム世代がシニア予備層となり、この 2 世代が労働者の半数を占めます。「シニア社員活用」を経営戦略に組み込む必要があるのは明白ですが、この発想でシニア社員の業務開発に取り組んでいる企業は極めて少ないです。
経営課題は様々ですが、シニア社員の特性を生かしやすい業務は以下の通りです。
①「やったほうが良い」が「できていない」業務
既存業務を分析すると、コア業務を優先するために、「やったほうが良い」が「できていない」業務が必ず出てきます。これらの業務を経験豊富なシニア社員にまかせることで効率改善や品質改善につなげることが可能です。昨今重要視される企業の社会貢献活動もマッチする可能性も高いです。
②内製化することで、生産性向上が見込める外部委託業務
外部に委託している業務でシニア社員に任せられる業務がないか検討してみましょう。コスト削減のみを目的とせず、全体の生産性向上の視点を持つことがポイントとなります。単純に見える業務でも、社内業務を知り尽くしているシニア社員が携わることで、新たな提案が生まれ、全体の生産効率が高まる可能性があります。
③地理的な制約がある業務
若手が積極的に望まない地方勤務や海外勤務も、シニア社員の働き方ニーズとマッチする可能性があります。「U ターン希望」「セカンドライフとしての海外勤務希望」など、シニア社員の働き方のニーズをしっかりつかんでおくことで、フレキシブルな人員配置が可能となります。
上記のように、経営課題からブレイクダウンしていくことで、企業にとってもシニア社員にとっても win-win な業務開発をしていくことが可能です。バブル世代がシニア層になり、シニア社員が急増する 2030 年までにはまだ時間があります。経営課題を洗い出し、シニア社員の業務開発をしてみてはいかがでしょうか。
著者 : 小永井心 (こながい しん)
株式会社IICパートナーズ 執行役員
中小企業診断士、健康経営エキスパートアドバイザー。1998年慶應義塾大学総合政策学部卒。大学卒業後は、住宅メーカーでの営業、社会人向けクリエイター養成スクールでの広報や新規事業推進、IT系企業での人事を経験。企業経営を網羅的かつ体系的に把握したいという思いから、2011年に中小企業診断士を取得。社内では管理部門を取りまとめつつ、社外では中小企業向けの経営コンサルティングから大企業向けのセミナーまで幅広く行っている。
出口 (イグジット) を見据えたシニア雇用体制の確立をしましょう
労働力人口の減少と高齢化が同時進行する中、雇用の入口にあたる採用、入社後の人材育成・開発に加え、出口 (イグジット) をどうマネジメントしていくかが、多くの企業にとっての課題となりつつあります。特に、バブル入社世代が続々と 60 歳を迎える 2020 年代後半に向けて、シニアの雇用をどう継続し、戦力として活用していくのか、あるいはいかに人材の代謝を促進するのか、速やかに自社における方針を策定し、施策を実行していくことが求められます。多くの日本企業における共通課題であるイグジットマネジメントの巧拙が、今後の企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
シニア社員を「遊休人員化」させることなく「出口」へと導くイグジットマネジメントを進めるために、まずは現状分析をおすすめします。
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