定年延長や継続雇用制度を考える土台となる 高齢社員の役割を考える3つのヒント
高齢化と少子化、そして人口減少が進む日本において、高齢社員の活躍推進は最も重要な人事課題の1つです。65歳や70歳への定年延長など、高齢社員の処遇改善に積極的に取り組んでいる企業も徐々にではありますが増えてきています。
しかし、依然として高齢社員の処遇や扱いに悩んでいる企業は多くあります。60歳以降の社員にどのような人事制度を用意して適用していくべきなのか、それを考える土台となるのが高齢社員に期待する役割ですが、ここで躓いてしまうと検討が前に進みません。
そこで今回は、自社にふさわしい高齢社員の具体的な役割をどう考えていけばよいのか、そのための3つのヒントを紹介します。
若手・中堅社員の助けや成長につながるように配置する
1つ目は、若手・中堅社員が助かるような、あるいは若手・中堅社員がより成長できるような高齢社員の役割や配置を考える、ということです。
高齢社員に期待する役割としてよく言われるのが、技術の伝承や現役社員に対するメンター的な役割など、育成や支援に関わる仕事です。しかし、それだけだと時間を持て余してしまったり、管理職と役割が重複してしまったりしがちです。
ですから、現役社員と一緒に仕事をしながらサポートするという形だけではなく、現役社員の手が回らない(手を煩わせたくない)ところをまとめて高齢社員に任せることで、結果的に支援や育成につなげることも考えるとよいでしょう。
どの企業でも、次世代を担う人材を育てたり、新たな事業を生み出していくために有望な社員を戦略的に配置したいという思いはある一方で、人手不足によって今の仕事から引きはがすことができずにいるというジレンマがあります。
そこを高齢社員にカバーしてもらうことで解消し、将来に向けた戦略的な人員配置を可能にしていくという考え方です。
全体の傾向ではなく個人個人に目を向ける
2つ目は個人個人に目を向け、現場の声を聞くことです。高齢社員に対する期待や実際の仕事ぶりについて、人事や経営者、管理職の方々にヒアリングすると決まって口にするのが「人による」という答えです。
当たり前ですが、一口に高齢社員といっても個人差は大きく、活躍の場を見つけるのが難しそうな社員もいれば、いてもらわないと困る社員もいるというのが現実です。
高齢社員について考えるとき、どうしても問題点やネガティブな点に目が行きがちですが、個人個人に目を向けて「この人のこういうところを活かすためにはどうしたらいいのか」という点に着目すると、可能性が広がっていくのではないでしょうか。まずは実力をもった高齢社員がその力を十分に発揮できる役割や配置を考えてみましょう。
そのためには、人事や経営だけで判断するのではなくて、現場の声を丁寧に聞きながら一緒に考えていくことが大事になります。
固定観念にとらわれず、新規事業にも挑戦する
3つ目は固定観念にとらわれないことです。高齢社員はITに弱いとか、体力が劣っているとか、新規事業は若手がやるものだとかいったイメージで一律に捉えてしまうと、活躍の機会を見逃してしまう可能性があります。
2つ目でも述べたように、能力や意欲に関しては非常に個人差が大きいため、シニアだからこうだと決めつけてしまうのではなく、1人1人をきちんと評価して期待役割を考えていくことが重要です。
また、新規事業に関しては、新しい事業やサービスはすでにあるものを新しい視点で掛け合わせることで生まれる、ということがよくあります。
例えば、製造工程の自動化の技術開発により生産性が大きく向上した製造業の会社において。その手法が取引先や仕入れ先の製造現場でも活用できそうだということで、生産性向上のためのサービスとして新たに提供を始めるといったケースがあります。
このケースでは、それまで社内であまり接点のなかった、取引先をよく理解している高齢のベテラン社員と、製造現場で技術開発に取り組んできた若手・中堅社員が一緒に組み、サービスの提案や提供を行うことで、新たな価値提供の機会をつくることができました。
このように、社内に既にあるノウハウや技術をこれまでと違う場所や違う場面で活用することで、豊富な経験を持った高齢社員の活躍の機会を見つけることができるかもしれません。
以上、今回は高齢社員の役割を考える3つのヒントについて解説しました。高齢社員が組織の中でしっかりと自分の役割を持って働けるかどうかは、若手・中堅社員のモチベーションにも大きくかかわってきます。組織全体の活性化のためにも、今後ますます増えていく高齢社員に対して期待する役割を整理し、具体的に提示できるようにしていきましょう。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)
クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。