離職防止ツールを導入する前に確認しておきたい3つのポイント

人口減少に伴って採用・転職市場の人材獲得競争は激化しており、人材の定着・離職防止は企業人事における大きな課題となっています。こうした状況を反映し、近年様々な離職防止ツールが開発され、比較的手軽に利用できるようになっています。
しかしながら離職防止ツールは万能ではなく、導入にあたっては注意すべき点もあります。離職防止ツールの導入を検討している、あるいは既に導入しているが効果を実感できていない企業向けに、確認すべきポイントを解説します。
離職防止ツールがカバーしている領域は限られている
離職防止ツールには、大きく分けて次の2つのタイプがあります。
1.社員のエンゲージメントやコンディションを定期的にチェックすることで離職の予兆をつかみ、適切に対応することで離職を防止する。
2.社内のコミュニケーションを活性化させ、社員同士の良好な人間関係を築くことで離職を防止する。
これらはいずれも本人及び職場での局所的な状況に着目し、その変化を捉え、あるいは改善することで離職防止につなげることを狙いとしています。しかしながら、離職の要因となり得るものは、次のように人事の様々な領域にまたがって存在します。
これらのうち、離職防止ツールがカバーしているのは職場環境を中心とした一部の領域に過ぎません。離職の真の原因が他のところあれば、いくら離職防止ツールを活用して対応しても「モグラたたき」のような状況となり、根本的な解決は期待できません。
離職防止ツールの導入に社内の理解は得られているか
離職防止ツールの導入にあたっては、上記のような限界があることを踏まえたうえで、導入の狙いや実際の運用方法について、社内の理解を得ていくことも重要なポイントです。
社員のエンゲージメントやコンディションを定期的にチェックするタイプのものであれば、わずかな時間であっても社員は定期的に一定の時間を割いて回答作業を行う必要がありますから、その手間に見合う意義があることを理解してもらわなければなりません。そうでなければ、回答率や回答内容の信頼度が低下してしまうこととなります。
また、社内のコミュニケーションを活性化させるタイプのものについては、実際に使ってみて初めてその価値を実感できる側面がありますので、まず使ってもらうための仕掛けや工夫も重要でしょう。本格導入前に人事部門や一部の部門で試験的に導入し、利用状況を踏まえて活用促進策とセットで全社展開することも考えられます。
管理職に対しては、離職防止ツールを使うことでどんな効果が期待できるのか、それが管理職としての職務遂行や目標達成にどう結びついていくのかを具体的にイメージできるかどうかがポイントです。離職防止ツールからのアウトプットを成果に結びつけるための最後のカギを握るのは、管理職の対応だからです。そのためには、次に挙げるフォロー体制の構築も不可欠となります。
フォロー体制はできているか
離職防止ツールが社内の支持を得て継続的に利用され、効果を発揮していくためには、フォロー体制をしっかりと構築しておく必要があります。
離職防止ツールには、パルスサーベイにより離職の予兆を検知し、改善アクションを提示してくれるものもあります。しかし、それを実行するのは人です。離職防止ツールが発信するアラートや提案に対して、誰が、どのようなタイミングで具体的なアクションを起こすのかを決めて準備しておくことが必要です。
上司任せにしてしまうのは非常に危険です。何の教育や支援もない状態で離職の予兆を知らされても戸惑ってしまい、適切な対応が取れずにかえって状況を悪化させる可能性もあります。研修を受けるなどして一定のスキルを持った担当者を人事部門に置き、本人と上司の双方に対してフォローを行うなどの工夫が必要でしょう。
また、離職防止ツールの利用状況や対応状況を定期的に確認し、効果検証を行うことも重要です。これによって「誰にとってどんなことが離職の要因となるのか」が明らかになれば、事後的な対応ではなく離職の要因そのものを取り除くような対策につなげられる可能性もあります。
逆に、離職防止ツールを導入したもののフォロー体制がおざなりで効果が出ない、あるいは効果があるのかどうかもはっきりしないような状況が続けば、ツールに対する期待感、ひいては人事部門や人事施策に対する信頼感も失うことになりかねないでしょう。
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今回は、近年数多く開発されている離職防止ツールの注意点について解説しました。離職防止ツールは決して万能ではありませんが、使い方によっては大きな効果も期待できます。各種サーベイによって得られたデータと実際の離職データやほかの様々なデータを掛け合わせることで、これまで見えていなかった離職の要因が浮かび上がってくるかもしれません。また、離職率の先行指標となるようなスコアを特定できれば、どうしても効果測定に時間がかかってしまう離職防止策のPDCAサイクルを短縮化することにもつながります。
クミタテルでは、各種データに基づいて離職の傾向や要因を分析し、思い込みや仮説ではなく実態に基づいた的確な対策の策定を支援する「リテンション・プラス」を提供しています。離職防止策にお悩みの企業様はぜひ一度ご相談ください。
著者 : 向井洋平 (むかい ようへい)

クミタテル株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。京都大学理学部卒業後、大手生命保険会社を経て2004 年にIICパートナーズ入社。2020年7月、クミタテル株式会社設立とともに代表取締役に就任。大企業から中小企業まで、業種を問わず退職金制度や高年齢者雇用に関する数多くのコンサルティングを手掛ける。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人、日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー、2級FP技能士。「人事実務」「人事マネジメント」「エルダー」「企業年金」「金融ジャーナル」「東洋経済」等で執筆。著書として『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』(経済法令研究会)ほか。