退職給付制度の導入に際して検討することconsideration
退職金は月に一度は支払わないといけない賃金と異なり、会社が任意で導入を決定するものです。しかし、一旦制度化して従業員等に周知してからは賃金としての性格を有し、会社が支払いを拒めないものになりますので、導入には慎重な検討が必要です。
退職金の目的や意義などそもそも論の整理する
既に退職金を設けている会社に導入した目的や理由ヒアリングすると、「人材の獲得(Recruit)」、「人材の定着(Retention)」、「離職の促進(Release)」という3つのRが回答としてあげられます。また、少子高齢化・年金不安、人手不足などを背景に、「従業員の老後の生活保障」という回答も多く見られます。
導入した当時は、従業員に喜ばれ、他社との労働条件で優位に立てたこともあった退職金ですが、時間の経過と共に効果が失われつつあります。
今では採用の現場で退職金が語られることは少なく、退職金をもらえるはずの従業員も退職を意識するまでは退職金の存在を知らない事も決して珍しくありません。
こうした事態に陥らないためにも、退職金の目的や意義などを整理する事からスタートします。 そのため他の報酬制度や育成プランなどと照らし合わせ、もし、退職金が有効な手段でなければ、退職金以外のプランを検討します。
退職給付制度の種類を検討する
退職金の目的や意義などが整理できたら、それに見合う退職給付制度の種類を選択します。一つの制度で実現できなければ複数の制度の導入も検討します。
例えば、「技術の習得に時間やコストがかかるため10年間は勤続して欲しい」と考えた場合、勤続10年に対するインセンティブあるいは、10年未満へのペナルティを検討します。ペナルティの代表的なものは、自己都合退職による退職金の減額です。こうしたペナルティが効果的ということであれば、自己都合減額が可能な制度として、退職一時金制度あるいは確定給付企業年金制度を検討します。
また、人生100年時代に向けて、従業員の老後の生活不安を解消し、定年後も困らないよう金融リテラシーを向上させることを目的とする場合は、確定拠出年金制度を検討します。
退職金モデルを検討する
退職金が任意の報酬制度である以上、支払う金額についても決まりはありません。
金額を決定する際に業界水準を調査することもありますが、重要なのは退職金の目的を達成すためにいくら退職金が必要になるかという観点です。
最低限「なぜその金額なのか?」その理由を説明できるようにしておきましょう。ただし、「同業他社がいくらだから、我が社もいくらにしよう」とするのはお勧めできません。また、退職金は定年時に支払うイメージが強いためか「定年で辞めるといくら?」というように、定年退職がモデルとして使われる事が多いですが、定年にとらわれることなく社内でのキャリアのピークを退職金モデルのピークと重ねることも重要です。
対象者を検討する
一般的に退職給付制度の対象者となるのは正社員が多いですが、近年の人手不足の解消や、同一労働同一賃金の取組から、アルバイトやパート職員等の短時間労働者を対象とするケースも出始めています。
また、定年後再雇用をしている会社では、定年時に一旦退職金を支払い精算した後、再雇用時に新たな退職金の枠組みを検討する動きも出てきています。退職金の対象者によっては、金額も制度も異なりますので、早い段階で検討します。