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企業再編時の退職金・年金の統合における主要論点Key Issues

M&Aや企業再編に伴い、退職金・年金の統合・分離を行う際に考慮すべきコンセプトや給付水準、退職金の算定方法、退職給付制度の構成、移行措置、財務インパクトといった主論論点を整理していきます。

退職金制度の統合を行う際、結果的には統合前のいずれかの制度に寄せるような形で設計されることもありますが、最初から「どこに合わせるか」という視点で考えてしまうのは望ましくありません。入社から退職までの長期にわたる勤務に対する報酬である退職金・年金制度は、過去の経緯を引きずったままであることも多く、統合後の人事ポリシーに合致しない可能性があります。

企業再編により環境が変わった社員に対して、退職金制度の改定がさらなる不安や不満を助長しないように配慮する必要はありますが、退職金制度の統合は積み残された課題を解決し、新会社が目指す姿を実現するのにふさわしい制度に見直す機会でもあります。退職金は社員の長期的なキャリアと深く結びついており、こうした観点から退職金に期待する機能やメッセージを整理しておくことが重要です。

退職金の給付水準は企業によってまちまちであり、制度統合時には必ず給付水準の調整が必要になります。また、手厚い給付を設けていた大企業から一部の事業を切り出すようなケースでは、従前の給付水準を維持することが難しいケースもあるでしょう。一口に給付水準といっても、「定年退職か自己都合退職か」「新卒入社か中途入社か」「基幹社員か一般社員か」といった条件によって異なる点にも注意が必要です。

給付水準の高いところに合わせれば社員の理解は得やすくなりますが、退職給付にかかる費用は増大します。逆にコストの増加を抑えようと給付水準を引き下げれば社員の士気にかかわってきますから、両者のバランスをどこでとるかが重要になります。退職金だけでなく、給与など他の報酬がどう変わるかという点も考慮する必要があるでしょう。

退職金の水準というと「新卒で入社して定年退職したときの退職金額」というイメージが強いかもしれませんが、企業再編はそうした終身雇用的なキャリアの前提を崩すものであり、そもそも社員のキャリアは多様化しています。過去の勤務期間に対応する退職金は従前の制度に基づいて確保しておき、将来に向かっては1年にいくらの退職金を積み上あげていくかという観点で給付水準を考えていくのがよいでしょう。

退職金の算定方法にはいくつかの種類があります。等級などに応じて毎年ポイントを付与し、退職までの累積額を支給する「ポイント制」、退職時の給与(基本給など)に勤続年数別の支給率を乗じて算出する「最終給与比例」、退職時の勤続年数や年齢によってあらかじめ支給額を定めておく「定額制」などです。「1年にいくらの退職金を積み上あげていくか」という発想で考えると、ポイント制のような積み上げ式の算定方法が適しているといえます。

定額制は別にして、退職金の算定要素は等級制度や給与制度に紐づいていますので、退職金の具体的な設計を進めるには統合後の人事制度の全体像をある程度固めておく必要があります。そのため、退職金制度の統合は人事制度の統合から1年程度遅らせて行うケースもあります。

退職金の算定要素として何を用いるかは退職金の性格と直結します。統合後の人事制度の中で退職金制度をどう位置づけるのか、人事諸制度との整合性を取りつつ、退職金制度が補完すべき役割は何かという観点も取り入れるとよいでしょう。

退職給付制度には、退職金の原資を社内で準備し、会社から直接退職金を支給する退職一時金制度のほか、確定給付企業年金、確定拠出年金、中小企業退職金共済のように、事前に定期的に掛金を積み立てておいて、そこから退職時(退職後)に一時金または年金を支給する外部積立制度があります。統合前において制度構成が異なる場合にはそれらを統一していく必要がありますし、同じ種類の制度であっても、例えば確定給付企業年金や確定拠出年金については規約を統合する手続きが必要となるなど、外部積立制度の取り扱いには注意が必要です。

制度ごとの詳細については「外部積立制度についての個別論点」にて解説していますが、まずは法令等の観点から「できること」「できないこと」「しなければならない」ことを把握したうえで、取りうる選択肢を整理しておくことが重要です。

従前の制度から新制度への移行にあたっては、従前の勤務期間に対応する退職金額については従前の各制度に基づく金額を確保したうえで、移行後については新制度に基づいて退職金を積み上げていくのが基本的な考え方です。しかし、既得権(今退職した場合に従前の制度のもとで支給される退職金額)さえ確保しておけば問題ないというわけではなく、期待権(定年、または将来のある時点まで勤務した場合に従前の制度のもとで支給されるであろう退職金額)についても考慮しておく必要があります。

だからといって(給付水準が一部下がる場合に)従前の制度を丸々保証してしまうと社内で異なる処遇が温存されて不公平が残ってしまったり、コスト負担が過大になってしまったりします。個々の影響額と全体の影響額を見ながら、補填の範囲と方法(統合時に一括で補填してその後の取り扱いを統一するか、統合後の一定期間で調整していくか)などを検討していきます。

また、退職給付制度間の移行を伴う場合には、移行元制度からの脱退(終了)に関する同意手続きが必要になったり、積み立てた資金の取り扱い(新制度に移すか、移行のタイミングで精算して受け取るか等)について本人が選択する場面が生じるケースもあります。受取方法によっては退職所得とならず、通常の退職金と比べて税制上不利になることもあるため、注意が必要です(制度ごとの詳細は「外部積立制度についての個別論点」にて解説)。

最終的に制度移行の意思決定を行うには財務インパクトの把握が不可欠です。退職金制度の改定に伴う影響額は、企業会計上の費用とキャッシュアウト、制度統合に伴う一時的なものと将来にわたるものに分けて考える必要があります。

会計上の費用は退職給付会計基準に基づいて算出され、制度移行に伴う処理方法はその内容により次の2つに分けられます。

■ 確定給付型の制度(退職一時金や確定給付企業年金)を確定拠出型の制度(確定拠出年金や中小企業退職金共済)に移行したり廃止する(その時点で従業員に退職金相当額を支払う)場合

制度移行や廃止により消滅する退職給付債務と、払い出される年金資産や企業からの支払額との差額を一時の損益として処理する。未認識項目がある場合は、そのうち消滅する退職給付債務に対応する部分を一時の損益として処理する。

■ 確定給付型の制度間での移行(新規に確定給付型の制度を設ける場合を含む)や、確定給付型の制度内で給付内容の変更を行う場合

制度移行や変更により増減する退職給付債務を過去勤務費用として認識し、平均残存勤務年数以内の一定の年数で損益として処理する。簡便法を用いている場合は一時の損益として処理する。

制度移行の方法によっては両方の処理が必要になることもありますし、合併した場合などは規模の拡大により簡便法から原則法への移行が必要となることもあるため注意が必要です。そのほか、IFRS(国際会計基準)を適用している場合は過去勤務費用を一時の損益として処理するなど、日本の退職給付会計基準とは取り扱いが異なる場合もあります。

また、確定給付企業年金から他の制度へ移行する場合には、積立状況などによって追加の掛金拠出が求められる場合がありますので、こうした影響も事前に把握しておくことが必要です(詳細は「外部積立制度についての個別論点」にて解説)。
退職金・年金制度コンサルティング

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